地元スタッフが紹介するディープな楽しみ方 週末イイヤマ

2021.02.26

その他

富倉そば調査隊

■調査1 困ったときは、おばあちゃん。

隊長の命を受けたボクは飯山へと向かった。
目的地の「富倉」は、市街地を越え、さらに山の奥の方へといくらしい。

やや不安だ。いや、かなり不安だ。なんでも富倉は上杉謙信が武田信玄と戦うために通ったとされる富倉峠へと続く集落。峠を越えれば、もうそこは新潟県妙高市だ。そんなことを思っているうちに集落が見えてきた。山の斜面に集落が点在する山村の風景。豪壮な茅葺きの家もちらほら。

これはこれはと眺めていると「めずらしいかい、これは中門造りって言うんだよ」と、後ろから腰の曲がったおばあちゃん。おっとびっくり。話を聞くと、玄関が母屋から飛び出している造りのことを言うそう。このあたりは3m以上雪が積もる豪雪地帯。そんな雪が屋根から玄関に落ちてこないよう玄関の2階で日射しを受けて仕事ができる工夫されているのだとか。
ふむふむ。これは雪国に暮らす知恵。そばとは別に報告しなければ。知恵といえば、おばあちゃんに勝るものなし。
「幻のそばをご存知ですか?」
「幻って、あれかえ、富倉そばのことかや」
おお! さすがおばあちゃん。きっとそれです!

■調査2 幻のそばとは…

おばあちゃんの名前は仲條ハヤさん。仲條さんのおうちへと、てくてく坂道を行く道すがら早速幻のそばのことを聞いてみる。
幻のそばとは…
◎その名もずばり富倉そば
◎オヤマボクチという植物の繊維をつなぎにする
◎ツルツル、キュッキュッとした食感が特徴

ということらしい。

オヤマボクチってなんだ?植物をつなぎにってどういうことだ?そばがツルツル、キュッキュッってなんだ?幻のそばが「富倉そば」というのはわかったけれど新たなる謎に直面。

そこに息子さんの朝夫さんが登場。どうやら、小麦が取れない富倉でそばを食べるために考えられたのがオヤマボクチをつなぎにする食べ方だったのだそう。
オヤマボクチとは、アザミ科の植物で地元では山ゴボウとも。その繊維だけを取り出して使う。臭みがなくて風味を損なわないオヤマボクチがそばによく合ったのだ。かつては自生していたが減ってきたので今は自宅で栽培するようになったそう。朝夫さんも自宅の畑でオヤマボクチを栽培している。小麦がなければ植物で代替。やはり昔の人の知恵はすごい!

■調査3 幻と言われる理由

新潟で有名な「へぎそば」はつなぎに布海苔を使うけれど植物をつなぎにするのは確かにめずらしい。めずらしいけれど「幻」とまでいう理由はどこにあるんだろう。

ハヤさんが庭の一角で手招きしてる。「これがオヤマボクチ」そういって指差したのは軒先に干されて乾燥し、茶色くなった葉っぱたち。元は裏側に白い毛がびっしりと生えていてその繊維を取り出すのだそう。

「これをな、揉んで、叩いて、揉んでゴミを取る」
ふむふむ。それで繊維にするのかな。
「それをな、鍋でぐつぐつ煮る」
ほうほう、それで繊維にするんだな。
「それでな、水洗いしてな、葉の堅い脈を取って、また煮る」
え、また?
「それでな、水洗いしてな、葉の堅い脈を取って、また煮る」
え?
「それでな、水洗いしてな、葉の堅い脈を取って、また煮る」

そんな作業を4回、5回と繰り返す。その後天日で干して乾燥させ何日もかけて取り出せる繊維は
葉っぱ1kgで、わずか4~5g。
「大変だでね、だんだん、打ち手も減ってるわ」
そうなんだあ。でもそうだよなあ。この大変さはなかなかだよ。そこまでしてもそばを食べたい。昔の人のそばにかける情熱を感じるじゃないか。隊長のそば熱なんて比べ物にならないなっ。

■調査4 幻と言われる理由をもうひとつ

オヤマボクチを鍋で煮る
のしは「ドンドン」と力強くそばを打って、薄くのばしていく
ゴザが透けてる!

こんなに手間ひまかかるんだから幻と言いたくなるのもわかる。そうしたらハヤさん、にっこりしながら「オヤマボクチもあれだけども、打つのもあれだわい」あれ? あれって、なんですか。なにがどうあれなんですか。

座敷に向かうハヤさんを追いかけていくとそこにはそば打ちの道具がずらり。おお。とうとう幻のそばが食べられるのか。隊長、お先に失礼します!

煮て戻したオヤマボクチの繊維をそば粉と混ぜてこねていく。小麦粉がオヤマボクチに代わっただけで打ち方は普通のそばと変わらないように見える。少しずつ水を入れてかき回しほろほろとなってきたらひとつにまとめていく。

…そう、そこからが、長かった。
こねること、なんと約1時間。どこにそんな体力がと思わせるほど黙々と、力強く、こね続けている。普通のそばなら「風邪をひく」といって乾燥するのを避けてもっと早く打ち終わる。これもオヤマボクチを使っているからこそか。圧巻のこねが終了すると、続いてのしへ。これがまたすごい。さっ、さっと流れるような動作で短いのし棒と長いのし棒を巧みに使ってまあるく、まあるくのしていく。

そして「ドンドン」と力強くソバを打つ。気づけばそばはのし板を越え反物のように薄く広がっていく。「新聞紙が透けて見えるくらいが、いいそば」ハヤさんは笑って言う。ほんとだ!透けて見える!そんなそばを見たことがあるだろうか、いやない。これこそ、幻の名にふさわしいそば。そこまで薄くできるのは、やはりこねがあってこそ。富倉そばは、よーくこねてあげた分だけよーくのびるのだそう。

■調査5 心して、いただきます。

「さあさ、茹でようかね」ハヤさんがお湯を沸かしはじめてボクは席に付き、そばつゆと薬味を用意する。と、そのとき、ボクの携帯が鳴るではないか。なんだか、嫌な予感…。
「隊員よ、調査の具合はどうかね。まさか、自分だけ先に食べようなんてことはないだろうね」
ええっ、見えるのか、あの人には見えるのか?

「ところで、来週予定が空いたんだ。食べられる店があるのかどうかも調査したまえ」
だったら、今日来なくてもよかったよなあ。しかも、やっぱり自分が食べたいだけだよなあ。
「なにか不平不満でもあるのかな。給料カットの危機にある隊員くんよ」不平不満なんてとんでもありません!ボクの好奇心は爆発寸前です!
「じゃ、よろしく」運良く、そばが茹で上がる前に電話を切ることができた。

そばを茹でる
待ちに待った茹で上がり!

茹で方は普通のそばと同じ。盛りつけはひと口分の束にして盛りつける戸隠流の「ボッチ盛り」。「いただきます」と両手をあわせ、そばをたぐると…細い!長い!長い!立ち上がらないと、ざるからたぐり上げられないくらい長い!
「薄く伸ばしたからな。これが薄くのばせねくって厚いままだと、硬すぎっちゃって」なるほど。
そして、そのツルツル、キュッキュッとした食感。「ツルツル、キュッキュッってなんだ」なんて疑ってごめんなさい。まさしくその食感。心のなかは懺悔でいっぱい。
そうそう、オヤマボクチは雄山火口と書いて昔は火縄銃の火付けに使われていたそう。昔の人って、自然のものを食べたり道具にしたり、上手に使っていたんだなあ。これも報告、報告。
それにしても幻のそばとは、その名に違わず普通のそばとは一線を画す手間暇かかるそばだったなあ。ハヤさん、ごちそうさまでした!

あ、そういえば、食べられるお店を聞かないと…。「このへんだら、はしば食堂とかじか亭っつうのがあるわ」ふむふむ、ありがとうございます、助かります。これで本日のミッションは終了っと。ハヤさん、朝夫さん、ありがとうございました!今度はオヤマボクチの作業、手伝いにきます!

■調査6 翌週のできごと

隊長と飯山は富倉に向かい、まずでかけたのは「はしば食堂」。見るからに普通の民家のここが行列ができる名店らしい。入ると元気なおばあちゃんが出迎えて矢継ぎ早に話かける。

「はいよ、何人だい?」
「普通のうちだでね、まあ、足崩して」
「大盛りじゃなきゃ足りないよ、若いんだから」
「笹ずしも食べたらいいわ、名物だでな」

笹ずし? 富倉の、この山奥で笹ずし?しばらくすると、ポテトサラダにお豆の煮物、大根とちくわの煮物に野沢菜漬けやたくあん漬けと手作りの惣菜や漬物がどっさり。え、これは…?

「隊員よ、キミ、信州のお茶請け文化を知らんのか」普通の食卓のおかずがお茶請けに出てくるんだそうな。しかし、これはすごいなあ。

■調査7 はしば食堂の幻のそば

待つこと5分。茹でたてのそばが登場した。ハヤさんちのそばより、やや透明感が強いか。「おおおお、これがかの有名な幻のそば! 富倉そば!
なんだね、このつや、この透明感!」
隊長、どこぞのグルメ漫画のようでちょっと恥ずかしいです。

「いただくぞ、わたしはいただくぞ。(ズルズル)…うまい!これは新食感だ。キミの報告に相違ないな」ありがとうございます!それにしても細くて薄いなあ。その分、歯ごたえは控えめかな。いくらでも食べられるぞ。

「笹ずしとやらも、どれ」
「笹ずしっていうのはね…」
そのあとに続く女将による笹ずしの説明の流暢なこと!「注文があれば、3000枚分もつくることもあるわ」3000枚!富倉の女性はみんな元気だ。

うーん、満腹。これだけのおかずもいただけば
もうあとはこの畳の部屋にごろんとしたいくらいだ。「隊員よ、気持ちはわかる。畳の部屋、仏壇、斜め上方から現世を見守る先祖の写真。障子には暖かな光が降り注いでまぶしいくらいだ。こんな民家でゆっくりしたい気持ちはよくわかる。しかし、我々に休んでいる時間はない、次だ!」
え! まさか、もう1軒…?
「当然だ。くまなく調査すべきであろう」…なんていう胃を持っているんだ。恐るべし隊長、53歳。

店名はしば食堂
住所飯山市滝ノ脇3206
電話0269-67-2340
営業時間・定休日要問合せ

■調査8 富倉で、はしごそば

富倉の集落をまわりながら次なる目的地「かじか亭」へ。さっそく富倉そばを注文すると出てきたのはやや黒めのそば。聞けば甘皮も一緒に挽いているのだとか。ツルツルッ!「おお、隊員よ、これはなんとぬるりとした食感!」確かに、はしば食堂さんともちょっと違う。
「きっと、打ち粉に片栗粉を使っているから余計にそう感じるのかもしれません」と、ご主人登場。
そうですかそうですか。これもまた勉強になるなあ。

こちらの店はご主人と近隣のおばあちゃんが打っているそう。「日によって違うこともありますけどね
それが土地の味、村の味かなとも思うんです。家によって、そばってみんな違うことを知ってもらえるかなって」
ふむふむ。家の味か。なんだかいいな。

「…ふむ」隊長?どうしました?
「キミの調査によると、富倉は人口が減り富倉そばの打ち手も減っているというではないか。こうなったら、わたしが富倉にそば修業に来てはどうだろう。打ち手だって、なかなかの高齢だ。そうだ、そうしよう!この日本の、富倉の、美しい伝統の食が途絶えてしまうなんて富倉そば調査隊として放っておけない。わたしがこの伝統を継がずして、誰が継ぐ!わたしが土地の味を守ろうじゃないかな!」
え!仕事は?
でも、まあ、こんなに日本の暮らしとそばを愛して止まない隊長。それもいいかもね。よし、帰ってさっそく所長に報告だ!

店名かじか亭
住所飯山市富倉1769
電話0269-67-2500
営業時間10~16時
定休日火曜 ※冬季休業期間有り

【ちょっとした豆知識】「謙信笹ずし」とは…?

謙信笹ずし
春日山城から川中島の合戦に向かう上杉謙信が富倉街道を通る際、村人が笹の葉の上にごはんとおかずをのせて差し出したのがはじまりというお寿司。うるち米に餅米を一割程度混ぜて炊いたごはんを笹の上に盛り、具をのせていただきます。具に使われるのは、ゼンマイなどの山菜やクルミ、ダイコンの味噌漬けを細かく刻んだ ものなど。色どりを兼ねた薬味に、紅ショウガを少し添えて。ほかに油あげや錦糸玉子など、具材は家庭によって異なります。笹を使うのは殺菌力があるから。餅米を混ぜるのは、時間が経っても乾燥しにくくするための工夫。おかずを上にのせたのは、謙信が箸がない状況でも食べられるようにとの配慮から。今でも冠婚葬祭やお盆、年末年始などに食されている笹ずし。先人のさまざまな工夫が積み重なって、郷土食として受け継がれています。

飯山商工会議所の取り組み
飯山市富倉地区に伝わる郷土食「富倉そば」と「笹ずし」。この地域独特の伝統文化として世代を超えて伝えられて来ましたが、どちらも作るのに手間ひまがかかるうえ、集落の高齢化による担い手不足から、伝承存続の危機にあります。これらの問題解決に向けて中小企業庁の支援を受け、飯山商工会議所と関係団体が連携して、平成23年度、24年度地域力活用新事業∞全国展開プロジェクト事業「峠の合戦食開発プロジェクト」を実施しています。この事業は、この二つの郷土食の魅力を地域資源と捉え、さらに新しい食のブランド醸成を図ることを目指した取り組みです。2013年の大学入試センター試験前には、合戦食でもあった笹ずしを食べて試験で力を発揮してもらいたいとの願いを込めて、長野県飯山北高等学校の3年生157名全員に「謙信笹ずし」を贈りました。

この特集ページは、
「平成24年度地域力活用新事業∞全国展開プロジェクト事業」の一環で制作されたものです。

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