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飯山市街地
日本各地に息づく多彩な「伝統的工芸品」は、長年受け継がれている技術や技法を用いて、主に手作業で生まれた日常的に使われる工芸品のこと。
長野県内には国の経済産業大臣により指定された伝統的工芸品が7品目あり、その内の2品目「飯山仏壇」と「内山紙」が飯山市に存在しています。
これらの工芸品は地域の文化や自然環境と深く結びつきながら、職人たちの手によって代々受け継がれてきました。
今回は飯山仏壇と内山紙の歴史と合わせて、実際に飯山市で気軽に楽しく体験できる「伝統工芸体験」をご紹介します。
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江戸時代前期から始まったとされる仏壇作りは、古くから仏教信仰の厚い土地柄や、漆塗りに最適な澄んだ空気と適度な湿気を持つ気象条件に恵まれて、飯山の代表的伝統産業として今日まで発達してきました。
飯山仏壇はマツやスギ、ヒノキ、ホウノキ、カツラなどの良質な木材を用いた「木地」に「彫刻」「漆塗り」「箔押し」「蒔絵」「金具」など多彩な装飾を施して仕上げられます。
特徴は、独特の技法「肘木組物 (ひじきくみもの)」によって作られる宮殿 (くうでん) と、その宮殿がよく見えるよう弓型に細工された弓長押 (ゆみなげし) 。そして全体的に描かれる 胡粉盛り蒔絵 (ごふんもりまきえ) が金具と金箔の美しさと融合し、ほかの産地には見られない特有の趣を醸し出しています。


飯山仏壇の制作は全8工程の分業で成り立っており、それぞれの部品作りから組み立てまで地域内で一貫して行われています。その工程のなかから飯山市では主に「彫金」と「蒔絵」の体験を楽しむことができます。

飯山仏壇には装飾だけでなく耐久性を高める目的で数多くの「金具」が使われています。
この金具に使われる技術が「彫金」です。銅または真鍮板を用いて、模様が刻まれた「タガネ」を打ち込むことで繊細かつ複雑な模様を生み出しています。
飯山市で代々金具職人を継ぐ彫金師の方々は、長年培ってきた技術を活かして日常的に使えるアイテムの制作・販売も行いながら、飯山仏壇の伝統を伝えています。

バングルや指輪などのアクセサリーから、箸置き、コースター、キーホルダー、しおりなどバリエーションは実に豊か。どれも一つひとつ職人の手仕事によって生み出されています。
これらの日常的なアイテムを「一般の方にも実際に楽しんで作ってもらいたい」と、体験できる機会を設けています。今回は「指輪づくり」と「香皿づくり」をピックアップしました。


講師:鷲森 敏男さん/鷲森金具
飯山市出身の飯山仏壇 (金具部門) 伝統工芸士。4代目として家業を受け継ぎ、50年以上にわたり飯山仏壇の金具製作に従事。彫金技術を生かした観光振興にも取り組むほか、講習会の講師を務めるなど後進の指導育成にも尽力している。
(1) まずは練習から

鷲森さんからレクチャーがあったあと、手始めに練習からスタート。
小さなアルミプレートを用意してくれているので、実際にタガネを打ちながらその感覚を掴みましょう。綺麗な模様を入れるには、力の入れ方が重要。シンプルな作業に見えて、実際にやってみると職人技のすごさがわかります……!
(2) デザインを考える

慣れてきたら、指輪づくりの本番へ。
鷲森さんが見本で作った数々の指輪を参考にしながら、どんなデザインにするか考えます。指輪のベースとなるのは、軟らかく加工しやすい「錫 (すず) の板」。リング幅が異なるさまざまな素材が用意されているので、どの指に付けるのか想定しながら選びましょう。
(3) タガネ探し


作りたいデザインが決まったら、その模様となるタガネを探します。
大小異なる円や直線、動植物モチーフ、ニコちゃんマークなどなど、鷲森さんが体験用にコレクションした何十本とあるタガネは、見ているだけでも楽しくなります。
(4) タガネ打ち

まっさらな錫板にタガネを使って模様を打ち込んでいきます。まさに一発勝負の全集中! 最初は緊張感がありますが、気が付けば途中から会話も忘れ、カンッ!カンッ!と金属音だけが鳴り響くことになることでしょう。
(5) 研磨

模様が出来上がったら、研磨液に付けて研磨作業に入ります。
ブラシで磨いたのちにタオルで擦ると、模様がよりくっきりと輝きます。
(6) サイズを合わせて仕上げへ

最後に木芯棒に板を当ててリングサイズを調整していきます。余分な部分はハサミでカット。実際に指にはめながらサイズが整ったら接着剤を使って接着し、これで完成です!

鷲森さん「まずは楽しい!から入ることが大事。あとからこれが伝統工芸なんだって知ってもらえたら」
平成27年の北陸新幹線飯山駅の開業をきっかけに、飯山仏壇事業協同組合でアイデアを出し合い、はじまったという飯山仏壇の伝統工芸体験。ただ見てもらうだけではなく、実際に体験することで知識を深めてほしいという想いが込められています。
彫金体験と合わせて飯山での滞在も楽しんでほしいという鷲森さん。とてもフレンドリーな方なので、おすすめの観光スポットや飲食店なども教えてくれることでしょう。
【彫金体験①】オリジナル指輪づくり
所要時間:1〜2時間ほど
体験費用:1名 4,000円、2〜9名 2,500円/人
支払方法:現金のみ
体験会場:飯山駅観光案内所 (10名以上の場合はお問い合わせください)
住所:長野県飯山市飯山772-6 JR飯山駅1階
予約方法:飯山駅観光案内所までご連絡ください ※空いていれば前日でもご予約可
| お問い合わせ | 信越自然郷 飯山駅観光案内所 |
| 電話 | 0269-62-7000 |

講師:三ツ井 照雄さん/三ツ井金具製作所
飯山市出身の飯山仏壇 (金具部門) 伝統工芸士。幼少期から父の背中を見て育ち、家業を受け継いで3代目。仏壇金具だけでなく、お客様との「対話から始まるものづくり」を大切にした受注生産、商品開発にも取り組んでいる。
(1) 職人さんの工房へ

飯山駅から徒歩約10分の場所にある三ツ井さんの工房が体験会場です。
「三井仏壇金具製作所」の看板が目印で、建物の手前には数台ほど駐車スペースもあります。
(2) デザインを考える

三ツ井さんから一通りレクチャーがあったあと、見本を見ながら実際にどんなデザインにするか考えます。ベースとなるのは手のひらサイズの銅板。六角形もしくは正方形が選べるほか、大きさや形の変更も可能です。
(3) ガイド線を引く

デザインが決まったら、タガネを打ち込む前に、三ツ井さんがガイド線を引いてくれます。
主に直線的なデザインを希望する場合に、このようなサポートをしてくれるので初めての方でも安心です。三ツ井さんが作業している間は、試しの銅板にタガネ打ちの練習をしましょう。
(4) タガネ打ち

いざ本番の銅板へ。複雑な模様もガイド線があれば迷わずタガネを打ち込めます。指輪づくり同様、途中から無言で作業に夢中になってしまうのが、彫金あるある……? 集中していると疲労にも気づかずに時間があっという間に過ぎていきますが、休み休み作業を進めていきましょう。
(5) 組み立て

模様をすべて打ち込めたら、三ツ井さんに組み立ててもらいます。
ペンチや木槌を使いながら、あっという間にお皿へと変身していきます。
(6) 研磨と塗装で仕上げへ

お皿の形になったら、あとは三ツ井さんによる仕上げの工程へ。
研磨したのち、全体を軽くニスで塗装し、乾燥したら完成です!

三ツ井さん「この伝統をなんとか残したいから体験をはじめたけど、今ではお客さんから逆にアイデアをもらえたりするから面白いんだ」
実際に彫金体験に来るお客さんとのコミュニケーションを通して、自分にはない新たな発想に出会えることもあるという三ツ井さん。ここで得たインスピレーションは自らの商品開発にも活かされているとか。
その昔「作れば作るほど売れた」「注文が集中して順番待ちになっていた」という時代があった飯山仏壇。現在はライフスタイルの変化により需要の減少が進んでいますが、革新的なアイデアで、この伝統文化を継承していこうとする三ツ井さんの熱意が伝わってきます。
【彫金体験②】オリジナル香皿づくり
所要時間:2~2.5時間ほど
体験費用:3,000~4,000円
支払方法:現金のみ
体験会場:三ツ井金具製作所
住所:長野県飯山市飯山1357
予約方法:1週間前までにメール or 電話にてご連絡ください
※ご希望に添えない場合もありますので、その際は改めて調整のご相談をお願いします。
| お問い合わせ | 三ツ井金具製作所 |
| 電話 | 0269-62-3709 |
| yu-mitsui@river.ocn.ne.jp |

飯山仏壇の特徴でもある「胡粉盛り蒔絵」は、貝殻を砕いて粉末にした胡粉が用いられ、立体感を出すために考案された技法。仏壇全体に立体的な蒔絵が描かれることによって、煌びやかで荘厳な雰囲気を醸し出しています。
奈良時代にその源流が見られる「蒔絵」は、漆で模様を描き、乾かないうちに金粉や銀粉などを蒔いて定着させることで模様を表現する技術です。

その蒔絵の技術を受け継ぐ藤澤蒔絵では「蒔絵の深い魅力をもっと多くの方に知ってもらいたい」と、蒔絵技術を生かしたアクセサリーや飾り物、食器などを制作・販売するとともに体験教室も実施。豆皿やプレートなどに蒔絵を施すことができます。


講師:藤澤 望さん/藤澤蒔絵
飯山市出身の蒔絵師。飯山仏壇 (蒔絵部門) 伝統工芸士の祖父と父の意志を受け継ぎ、28歳で家業へ。管理栄養士の経歴を持ち、カジュアルな漆絵を用いた食器シリーズなどの商品開発に力を入れている。
(1) 体験工房へ

体験は藤澤蒔絵の拠点施設「信州うるし工房 彩」にて行います。
建物の前に2台ほどの駐車スペース有り。公共交通機関を利用する場合には、飯山駅から長電バス 野沢線または中野木島線で約7分「上新田」で下車後、徒歩約5分で到着します。※飯山駅などからの無料送迎も可能。お問い合わせください。
(2) お皿の形と図案を決める

お皿は「角型」と「梅型」の2種類。図案はいくつか用意されているので、お好みのものを選べます。もちろん、オリジナルの図案でもOK!好きなデザインやイラストをあらかじめ用意し、持参するとスムーズです。
(3) 図案を転写


カーボン紙を使用して、図案をお皿に転写していきます。
転写した線を見やすくするため、金粉が付いた真綿でお皿を軽くこすると図案が浮かび上がってきます。これで準備完了です。
(4) 漆で線をなぞる

ここからが本番!蒔絵筆を使って漆を塗っていきます。筆は繊細なので、少しずつ下書きの線をなぞっていきましょう。すべて塗り終えたら、湿気のある箱の中で乾燥させます。湿度が高いほど乾きやすいというのが漆の特徴です。
(5) 粉を蒔く

真綿を使用して、金粉や銀粉を蒔きます。あまり強く押さえると漆の部分がこすれてしまう場合があるので、慎重に作業するのがポイント。再度乾かし、余分な粉や汚れを落としたらもう完成目前!
(6) 螺鈿 (らでん) を付けて仕上げへ

最後に、貝殻を加工した「螺鈿」を付けることができます。
螺鈿はきらきらと輝き、見る角度や向きによって美しく表情を変えるのでアクセントにぴったり。爪楊枝とボンドを使って接着したら完成です!

望さん「伝統工芸とはいえ堅苦しく考えず、綺麗に金粉で絵を描いてみませんか?」
2代目のお父さんが蒔絵体験をはじめ、家業に入ってから体験担当になった望さん。「蒔絵や飯山のことを知ってもらえるのはもちろんですが、さまざまな人たちと交流ができて、アイデアの幅が広がっていくのが楽しい!」と笑顔で語ってくれました。
望さんが考案した食器シリーズは、普段の生活に馴染むような「ほっとするデザイン」。飯山仏壇の荘厳で煌びやかなイメージとはまた違った角度から、蒔絵の魅力を発信しています。
【蒔絵体験】オリジナル豆皿づくり
所要時間:2時間ほど
体験費用:4,000円〜
支払方法:現金/クレジットカード
体験会場:信州うるし工房 彩
住所:長野県飯山市野坂田741-4
予約方法:こちらから空き状況を確認してご予約ください
| お問い合わせ | 藤澤蒔絵 |
| 電話 | 0269-62-2717 |
| WEBサイト | https://maki-e.jp/ |

内山紙は、飯山市のほか、栄村や野沢温泉村といった豪雪地帯で育まれてきた和紙です。
その歴史は江戸時代初期からはじまるとされ、雪深い冬の間に農家の冬の副業として根付いていきました。製造工程は時代とともに部分的に改良が加えられましたが、基本は今も受け継がれています。
原料は楮 (こうぞ) の繊維100パーセント。それにより強靭で通気性・通光性・保温性にも優れているのが特徴です。
そして製造工程で欠かせないのが雪。多量の積雪を利用し原皮を凍らせる「凍皮 (とうひ)」や、雪上に広げて天日にさらす「雪ざらし」を行うことで、自然な白さと丈夫さがある紙ができるといわれています。

飯山手すき和紙体験工房では、どなたでも気軽に和紙づくりが体験できます。
押し花などを添えたオリジナルのはがきづくりは、工程が少なく所要時間も短いので、幼児から大人まで楽しめるのも嬉しいポイント。手漉きのはがきを旅の便りにするのはもちろん、世界に一つしかない しおりや色紙をお土産にするのもおすすめです。


講師:平田 真澄さん
京都府出身、飯山市在住の和紙職人。飯山手すき和紙体験工房に勤務しながら、個人でも手漉き和紙の製紙から商品開発、造形作品まで幅広く制作を手がけ、伝統の継承と発展を目指し活動中。
(1) 飯山手すき和紙体験工房へ

飯山駅 斑尾口から徒歩約10分の場所に位置する「飯山手すき和紙体験工房」が会場です。建物の前には、車を15台ほど置ける広々とした駐車場も完備。
到着したら、正面の入口から訪ねると、平田さんが迎えてくれます。
(2) まずは原料の説明から

まずは平田さんが原料となる「楮」の説明をしてくれます。
内山紙の和紙職人は、原料栽培から自分たちで行うのが基本。楮の原木のほか、時間をかけて繊維状にした原料を工程ごとに比較して見せてくれます。
(3) 和紙を漉く


原料を理解したら、実際に紙漉きスタート。
ここで登場するのが、和紙を漉くための道具「簀桁 (すげた)」です。この木枠部分を持ち、水槽に入った原料液をすくい上げて、上下左右に揺らすと水が下に抜け落ち、繊維だけが簀桁に溜まります。あとはこれを数回繰り返すだけ。
(4) 和紙に装飾を

十分な厚さになったら、次は装飾です。
カラフルなはぎれ和紙や、押し花などが用意されているので、思い思いにレイアウトしていきましょう。配置できたら、装飾が取れないように、手ですくった原料液を優しくかけて作業は終了。あとの仕上げは平田さんが行ってくれるので、紙漉き自体は10〜20分程度です。
(5) 乾燥

はがきの場合、乾燥時間は15分ほど。(※枚数により変動あり)
すばやく水気を抜いて短時間で乾燥させる機器を使いながら和紙を乾かしていきます。
(6) プレス機で仕上げへ

最後にプレス機とアイロンを使い、はがきを綺麗な平らに仕上げたら完成!
あっという間に手漉き和紙のはがきが出来上がりました。

平田さん「体験を通して伝統工芸に触れ、次世代の担い手に繋がるきっかけになれば嬉しい」
飯山市内の小学校では、例年内山紙の手漉き体験が行われ、自らの手で漉いた紙が卒業証書として使われるなど、地域文化に深く根付いていますが、全国的に見ても小さな産地であることから後継者問題は常につきまといます。
「職人になりたいというよりも、小さな産地で困っているポジションに自分が入り、和紙という“伝統”を守りたい」という想いが平田さんの原点。今日も体験を受け入れながら、内山紙の伝統を未来へと繋いでいます。
【手すき和紙体験】オリジナルはがきづくり
所要時間:10〜20分ほど (乾燥させる時間は別)
体験費用:はがき1枚 210円
支払方法:現金のみ
体験会場:飯山手すき和紙体験工房
住所:長野県飯山市飯山1439-1
予約方法:事前予約不要。直接工房までお越しください
※10名様以上でのご利用は、前日までに要予約
| お問い合わせ | 飯山手すき和紙体験工房 |
| 電話 | 0269-67-2794 |
| 営業時間 | 9:00-17:00 (受付は16:30まで) |
| 休館日 | 月曜日 (祝日の場合は翌日)、年末年始、臨時休館の場合 |
| WEBサイト | https://www.city.iiyama.nagano.jp/soshiki/shoukou/shoukou/dentou/iiyama_wasi_taiken |

伝統工芸体験は、技と想いが込められた特別なものづくりです。
大量生産品にはない、温かみのある手づくり作品をつくることができます。そして、集中して作業することで、こころが豊かになり、完成した時の喜びは格別であることでしょう。
どの体験でも職人さんが優しく、そして丁寧にレクチャーしてくれるので、ぜひ気軽に挑戦してみてくださいね。
それでは、よい週末を!
〈フォトギャラリー〉






執筆:くわはら えりこ
撮影:太田 孝則
記事公開日:2026年2月3日