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日本有数の豪雪地帯ながら、春の山菜や夏野菜、秋のキノコや果物、山の実など、四季折々の農作物や豊富な自然食材に恵まれた飯山市。厳しい冬に備え、先人たちは知恵を絞ってその恵みを活かし、独特の食文化を育んできました。古来からの伝統の味として今なお受け継がれているこれらの郷土料理の作り方を、地元の先輩たちから教えていただきました。
いもなます
江戸時代から冠婚葬祭などに出されていた、寺の町・飯山の代表的な精進料理。ジャガイモ本来のデンプンを取り除いて料理するので、シャキっとした歯ざわりが特徴です。いもなますの出来映えはジャガイモの千切りの腕で決まると言われています。
田植え煮物
飯山の冬の寒さを活かして作られる凍み大根を使い、とうど(田人)衆にふるまうために大鍋でにしん等と煮込んだ料理。凍み大根は独特の風味や歯ごたえがあり、煮るとたくさんの水を含むことから、田の水に困らないとの意味合いで好んで使用されました。忙しい田植えの時期の「おごっつぉ(ご馳走)」です。
たくあんの白和え
祝い事や客寄せの時には必ず作られた「白和え」。まろやかな舌ざわりが人気の料理です。今回は冬の定番の漬け物・たくあんを使いましたが、ぜんまいやニンジンともよく合います。
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ジャガイモ(男爵イモが最適)・・・ 中2個
油・・・ 大さじ3
酢・・・ 大さじ3
砂糖・・・ 大さじ4
塩・・・ 大さじ1/2
ジャガイモの皮をむき、細い千切りにします。 同じ大きさのジャガイモを選ぶと、千切りにした際に長さが揃い、美しい仕上がりになります。切り方は家庭によってさまざま。少量のニンジンや紫イモ、黄色みの強いジャガイモを加えると彩りが鮮やかに。
POINT ピーラーを使うと、ジャガイモの薄切りが簡単に。ただし、手で切ったほうが繊維はつぶれません。
千切りにしたジャガイモを2時間以上水にさらし、デンプンを取り除く。 さらす時間は好みもあり、千切り同様、家庭によってさまざま。教えてくれた萩原さんは料理する前夜から水にさらすそう。
さらしたジャガイモをざるにあけ、水をよく切ります。 写真右のザルに入ったものは前日から12時間以上さらしたもの。デンプンが取り除かれたため、黄色かったジャガイモが白く変わっているのが良くわかります。
POINT 残ったデンプンは、昔は干して片栗粉として使用したのだとか。
油を熱した鍋にジャガイモを入れ、全体的に油を回します。 普段はカロリーを気にして油を控えめにしている方も、おいしさのために、ここでは多めに使いましょう。
酢を加えて、さっと混ぜます。 ジャガイモに透明感が出てきたら、酢を加えます。こうすることで、ジャガイモのシャキシャキ感が出ます。
【五倍酢】 JA北信州みゆきでは、国産米を主原料とした穀物酢を5倍に濃縮した「五倍酢」が販売されています。笹寿司などに使われるほか、5倍に薄めれば通常の酢としても使用できます。
砂糖・塩の順に加えて炒めます。 砂糖を加えると、煮汁にとろみが出ます。それをよく絡めるように混ぜながら炒めます。
POINT 味見をして、足りないようなら調味料をプラス。仕上がりの直前に砂糖を足すと味が締まります。
中火にして水分がなくなるまで炒めます。 少し水分が残る程度まで炒めます。汁気を残すことで料理にツヤが生まれ、きれいに出来上がります。
POINT 完全に水分がなくなるまで炒めるのではなく、やや煮汁を残すのがポイント。残った煮汁を絡めて食べるとおいしさが倍増します。
完成!
お皿に盛り付けます。色の濃い器を使ったほうが見た目がきれいな仕上がりに。シャキシャキした食感はジャガイモと言われなければわからない味わいです。いもなますは冠婚葬祭の料理に用いられますが、葬儀の際はニンジン等の彩りは入れず、ジャガイモのみで作られます。
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ジャガイモ・・・ 400g
ニンジン・・・ 100g
身欠きニシン(乾)・・・ 2本
塩漬けワラビ・・・ 400g
凍み大根・・・ 2本
昆布(10cm角)・・・ 1枚
水(今回はだし汁を使用)・・・ 5カップ
しょうゆ・・・ 大さじ4
塩・・・ ひとつまみ
砂糖・・・ 大さじ4
だし・・・ 少々
酒・・・ 大さじ2
・凍み大根凍み大根は前日から水に浸けておきます
・ワラビワラビは前日から塩出しをしておきます
・ニシンニシンは米のとぎ汁に一晩浸けます
・昆布とじゃがいもと人参は下準備は特に必要ありません
ジャガイモ・ニンジンを乱切りにします。 ジャガイモは皮をむき、ニンジンとともに2cm大の乱切りにします。
POINT 乱切りにした材料は鍋に入れていきます。あまり小さく切ると煮崩れてしまうので、やや大きめに切ったほうが良いでしょう。
身欠きニシン、ワラビ、昆布を切ります。 身欠きニシンは2cm大に。ワラビは5cm大にカットし、昆布は一口大に切ります。
凍み大根を切ります。 凍み大根も一口大にカットし、さっと茹でます。
飯山では昔から1~2月の厳しい寒さを利用して各家庭で自家製の凍み大根を作り、保存食として利用してきました。軒先に吊るされた凍み大根は冬の飯山の風物詩でもありましたが、最近では見かけることが少なくなっています。
ワラビ以外の材料を煮込みます。 ワラビ以外の材料を鍋に入れ、水5カップを加えて強火で煮込みます。
調味料を加えてさらに煮込みます。 ある程度煮込んだら、砂糖、塩、酒、しょうゆを加え、沸騰したら中火にして柔らかくなるまで煮込みます(4のステップの際、通常の水で煮込んだ場合はだしも加えます)。
ワラビを加えて、ひと煮立ちさせます。 最後にワラビを入れてひと煮立ち。ワラビは塩抜きをしてありますが、多少の塩気が残っているので調味料のような意味合いも。最後に味を調えて火を止めます。
POINT ワラビは煮すぎると溶けてしまうので、最後に入れるのがポイント。沸騰直前で火を止めます。
完成!
器に盛り付けます。田植えは短期間に多くの労力を必要とし、何日も大勢の食事の用意をしなければならないので、身欠きにしんと郷土の産物をたっぷりと使い、栄養面に優れていて何回も煮直しができた田植え煮物は重宝されました。
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たくあん・・・ 1本
<和えごろも>
豆腐・・・ 1/2丁
砂糖・・・ 大さじ3
塩・・・ 軽くひとつまみ
味噌・・・ 大さじ1
すりぐるみ・・・ 大さじ2
すりごま・・・ 大さじ1
・豆腐はさっと茹でてざるにあけ、しっかり水気を切っておきます。
・味噌は色の濃くないタイプのほうがきれいな仕上がりになります。
たくあんを細切りに。 たくあんを5mmほどの細切りにします。たくあん自体がしょっぱい場合は、水に浸けて塩抜きします。
すり鉢で豆腐をすります。 すり鉢に豆腐を入れ、すりこぎでなめらかになるようにすります。
和えごろもの材料を加えて混ぜ合わせます。 豆腐に砂糖、塩、味噌、すりぐるみ、すりごまを加えて、なめらかになるまですり合わせます。
丁寧にすり合わせます。 なめらかな食感になるように、とにかく根気よくすり合わせることが大切。丸山さん曰く、昔は子どもがすり鉢をおさえる係だったのだとか。
たくあんを入れて混ぜます。 木べらでさっくりと全体を混ぜ合わせ、次に手でしっかりと均一に混ぜ合わせます。手で和えるほうがよく混ぜ合わせることができます。
POINT 手を使って混ぜる場合は、使い切り手袋を使うと良いでしょう。
完成!
器に盛って完成! 冬場の保存食であるたくあんは、味に飽きが来たり、冬中に食べ切れなかった場合に、白和えなどで変化をつけて食べたそうです。また、たくあんの白和えはかつては正月料理としても振る舞われたそうで、ご馳走の一品として大どんぶりに盛りつけられました。
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「飯山食文化の会」 飯山市を中心に失われつつある伝統の郷土食を再びよみがえらせようと、郷土の料理に詳しい人々から情報を集め、それらを再現しています。学校で子供達への食育活動や、郷土料理の伝承活動を行い、郷土の食を見直すきっかけづくりになる活動を行なっています。
飯山市で古くから冠婚葬祭などにおいて食され、親しまれて来た郷土食として、平成19年に「笹寿司」「富倉そば」「いもなます」「えご」の4品が飯山市の無形民俗文化財に認定されました。飯山を代表する食文化として今も引き継がれています。
富倉そば
富倉地区に伝わる郷土料理。かつては、つなぎに使う小麦の栽培ができなかったことから、「オヤマボクチ(山ゴボウ)」というモリアザミ科の野生植物の葉から取り出したモグサのような繊維をつなぎとして使用。そのため麺のコシが強く、つややかな色合いとともにツルツルとした食感が味わえます。今は手間ひまが掛かり、作り手も少なくなっていることから「幻のそば」と言わます。
笹ずし
くるみや山菜などをご飯の上にトッピングして笹の葉の上にのせた素朴な寿司。戦国時代に上杉謙信が春日山城から富倉街道を通って川中島合戦に出陣した際に富倉地区の村人が笹の葉の上にご飯とおかずを一緒にのせて差し出したのが始まりと言われています。このことから別名「謙信寿司」とも呼ばれるようになりました。平成12年には県の選択無形民俗文化財に認定されています。
えご
えご草は日本海側の一部の沿岸のみに見られる海草。ミネラルやビタミンを豊富に含み、かつては垰道を行き来している越後の魚商人が天日干ししたえごを運んで来ました。冠婚葬祭や人寄せには必ず供される料理で、海のない飯山で貴重な海産物を工夫して取り入れた逸品です。
いもなます
江戸時代から冠婚葬祭などの際に出されて来た寺の町・飯山の伝統的精進料理。ジャガイモ本来のデンプンを取り除き酢を使って炒めるので、シャキとした歯ざわりと酢の香りが特徴的。品のあるぜいたくな料理です。